あらすじ
常に既成の枠組みを打ち破り、理想を求め続けたスティーブ・ジョブズ。人と違う考え方を貫き、周りの人全てを敵に回した<反逆児>が、どうやって、世界中の人に愛されるデバイスを創ったのか。 シリコンバレーの寵児と呼ばれながらも繰り返される成功と挫折の狭間で、彼は何を考え、何を想ったのか―。 1970年代、友人たちと共に自宅ガレージからスタートしたアップル・コンピューター。 その類稀なる創造力により、文字通り“世界を変えた”天才の半生を描いた大注目作。(C)2013 The Jobs Film,LLC.
映画情報
- ジャンル:ドラマ
- 監督:ジョシュア・マイケル・スターン
- 主演:アシュトン・カッチャー, ダーモット・マローニー, ルーカス・ハース
時間:127分
Amazonプライムビデオでの評価
☆3.5/5
良い評価のまとめ
- スティーブ・ジョブスを正確に表現しているかは別にして、信念や価値観、美式にこだわる個性がうまく表現されている。
- 主演のアシュトン・カッチャーの好演が光る。楽しんで演じている様が伝わってくる。
- 細かい部分がかなり端折られている分、展開がスピーディーで心地よい。
- 1980年代のくすんだようなレトロな世界観が表現されているのがスゴイ。
悪い意見のまとめ
- Apple社設立後から面白くなってくるのに、学生時代の部分がやたらと長い為にラストの終わり方が中途半端に感じる。
- ジョブズの知られている事実を淡々となぞっただけの映画。
- 端折りすぎられているため、予備知識無しで見ると退屈な展開が続く。
frostのレビュー
ブログ初心者の私が夜遅くまで、ああでもない、こうでもないと文章作成に頭を悩ませていたある日のブレイクタイムに鑑賞した映画。
スティーブ・ジョブスについては言うまでもなく、IT分野において世界で最も成功した人物のひとりであるということは、みなさんご承知の通りです。
また、成功者であると同時に「トラブルメーカー」としてのジョブス像も有名ですし、それによるいくつかの失敗についても多くの方が知るところです。
それ以外に、見るものを惹きつけるスピーチや浮世離れした振る舞いについても、彼をかたちづくる需要な要素として人々の間で語られます。
だれしもが知る、スティ―ブ・ジョブスという人物を描いたのが今回取り上げる映画です。
物語の序盤について
物語は2001年、一度は会社を去ったジョブズが再びApple社に復帰した後に行った、新製品発表プレゼンの場面から始まります。この新製品は2000年代の音楽再生プレーヤーの金字塔となった「iPod」なのですが、この映画は最後にこのiPodのプレゼン会につながることとなります。
言い換えれば、「終わりのシーン」の一部を冒頭で見せて、その後のストーリーは時間軸を順にたどっていき終わりに「冒頭のシーン」につながるという構成になっています。
つながるといいましたがエピソード的には飛び飛びなので「点から点に着地する」といった感じでしょうか。この「点」いついては物語の終盤でも触れますが物語の重要な核となっています。
冒頭のシーンでは「この映画は、Apple社を立ち上げる前からiPodを発表するまでの物語なのですよ」ということを教えてくれています。
冒頭のシーンから変わり、1980年代——。ジョブスの学生時代です。
正確に言うと、講義は受けているのですがジョブスは大学自体はやめているので学生の身分ではありません。講義に忍び込み、学生仲間たちとつるむことでコンピュータ—やカリグラフィなどについて学ぶほか、現実のジョブス自身が振り返って「最も素晴らしい体験のひとつだった」と語ったL〇Dを嗜んだり、インド旅行をしたりして過ごします。
これらについてはのちのジョブズと彼がつくった作品をかたちづくるものとして知られるエピソードですが、そのようなシーンを「点」のようにちりばめているのが学生時代のシーンです。
この学生時代のシーンについては、全体的に粗く暖色の映像とカントリー調の音楽が80年代っぽさが良く表現されていると思います。
アシュトン・カッチャー演じるジョブズがとても男前です。比較しようと、現実のジョブズの若いころの写真を検索してみたのですが負けず劣らずイケメンで驚きました。
学生をやめ、ゲーム会社の社員として働くジョブズですが、トラブルメーカー的性格から周囲になじめず疎まれる存在に…。
平社員のジョブズが同僚を「しっかり仕事しろ!」と滅茶苦茶に罵ってしまいます。見かねた上司がいさめ、交渉の結果ジョブズひとりで行ってもよいという業務を上司より与えられます(しかも報酬は高額)。この上司えらいですね、現実なら「お前も怒ってないで仕事しろ。」と切り捨てられて終了といったところでしょう。
与えられた仕事を何とかこなそうとするジョブズですが行き詰まり、友人でコンピューターオタクのスティーブ・ウォズニアック(以下、ウォズ)に仕事を完成させてもらうよう依頼します。ウォズにこの仕事の報酬を聞かれたときに、実際の金額よりも大幅に少ない金額を申告したうえで「山分けだ」と言い放ちます。
このシーンが若いころのジョブズの性格およびクズっぷりをよく表していると思います。ジョブズは知ってるけど性格までは知らないという人ならこのシーンをみて「えっ!?嫌な奴じゃん…」そう思うとおもいます。このようにジョブズの負の面をあらわすエピソードはこの映画の各所に出てきます。これにより、ジョブズという人間の輪郭が知らない人でもつかみやすくなっています。
また中盤までの相棒となるウォズの良い人感との対比が際立ちます。
物語の中盤について
徐々に物語の進行速度が加速し始めます。終盤までそのスピードは上がり続けます。映像も序盤よりも鮮明なものに変わっています。
ウォズの協力により仕事をこなし、高額報酬を得たジョブズ。それを元手にウォズの開発したホームコンピューター(パソコンの前身)を仲間たちと売り出そうとします。ジョブズにはウォズの開発したこのコンピューターが「世界を変える」ものに思えたのです。
「Apple」という社名を決めるくだりは秀逸でした。ジョブズの非凡さをよく表現できています。
始めは営業面で苦戦しますが、ジョブズの熱意と持ち前のトーク力で初代機「Apple Ⅰ」を売り切ります。これに気をよくして、続く後継機の開発にも着手しますがこちらも営業面でかなり苦戦。しまいには付き合っていた彼女の浮気現場を見てしまい散々なことに…。
後継機の営業がうまくいかないジョブズはまたもや、仲間たちをディスりまくります。ここまで言われたら逆切れして事業から降りてもいいレベルですが、仲間たちはジョブズに付き合います。なんと心の広いやつらなのでしょう!
溢れる情熱を持つがゆえに独りよがりになってしまうという、天才ゆえの孤独を描いています。ただしこの時点ではひどく子供っぽい怒りも伴っています。
ジョブズの懸命の営業が実を結び、同じような志を持ち、さらに破格の出資を提供してくれる人物が現れます。マイク・マークラ(以下、マイク)です。
マイクからの出資をもとに、後継機「Apple Ⅱ」を発表した段階でApple社は大きく成長していました。ジョブズの愛車が古いワゴン車から高級スポーツカーに変わったことがこれを象徴しています。高級車で自分の会社に盛り込むシーンで、身障者用スペースに駐車するのには思わず笑ってしまいました。アスペさんですね(笑)
新規公開した株式も即完売。Apple社はIT業界を代表する大企業になります。
富豪になってもなおジョブズの気性は変わりません。意見の相違から、怒りに任せて社員をクビにしてしまったり、学生時代からの彼女が妊娠した時にも全く相手にしないそぶりを見せたりと、人道外れた振る舞いをしてしまいます。
また創業当時からの仲間をぞんざいに扱ったり、周りに気を遣わせたり…。
ここまでくるとただの嫌な奴になってしまうので、救いとばかりに彼が葛藤するシーンも出てきます。このように言うと陳腐なのですが、この表現が押しつけがましくなく、しかしかろうじてわかるように「救い」をちりばめています。
「絶対に認知しない」と言い放った彼女との子どもの名前”リサ”を開発中のパソコンの名称にしてみたり、そのパソコンの開発に一切の妥協を許さず自身の最高傑作にしようと頑張り続けたりします。
採算度外視で、周りに止められようがお構いなくいい製品を作るというのはただ単に彼の信念だけによるものではなく、わが娘を自分の作品に重ねて大事に育てている。というのは私の邪推でしょうか。
また創業当時の怒り方とは少し質が違って「より良いものを作りたい」という信念が純度を増した怒りになっているのも救いでしょうか。
完成した「Lisa」の販売は、これまでにかかったコストを考えると販売面では失敗といえるものでした。
続く「Macintosh」を発表した後、企業経営を省みないとしてジョブズはCEOながら解雇されてしまいます。この時の議決でジョブスと敵対する側にマイクも味方して…。
さらに解雇前には、序盤からの相棒ウォズも彼のもとを去ってしまいます。
物語の終盤について
時は流れ、1990年代——。
映像の雰囲気が今風に、また変わります。この映像の変化が時間の流れと、ジョブズの置かれている境遇を表しているのに、2回目でようやく気付きました。
彼は家族とくらしていました。学生時代の彼女とその娘リサと。
そんな彼のもとに現Apple社の重役が訪れます。「傾いた会社を立て直してくれ」との願い出にジョブズは応じます。
会社に戻ると、かつて自分を裏切ったマイクが昔からすると少し老けてそこにいました。始めは自分を退職に追いやった連中に対しての警戒心が先立ちます。しかし、このころのジョブズは感情をむき出しにしたりはしません。大人の会話もできるようになっています。
そんな、すこし冷めた感じのする復帰後のジョブズですが、デザイン部を訪れた時にかつての情熱を取り戻します。「i Mac」のデザインをしている社員とのやり取りの中で、彼は自分が信じている哲学を再び実行しようと決意します。
「点と点をつなぐ」とはジョブズがスタンフォード大学で行った”もっとも有名な”スピーチの一節ですが、この場面で序盤から中盤にかけて「点から線を伸ばし続けた」結果、このシーンでようやく「結ぶべき点に出会った」感じです。
物語の最後はジョブズが録音ブースでスピーチをしている場面で終わります。
最後にジョブズは言います。
「世の中を変えられると本気で思う人間が、世界を変えるのだから。」
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