ホンダ・インテグラは、本田技研工業がかつて生産・販売していた3ドアクーペ型の乗用車です。
そのなかで「インテグラ・タイプR(通称:インテR)」は最も高性能なバージョンです。

このクルマはホンダのレーシングスピリットを象徴する一台として、クルマ好きのあいだで確固たる地位を築いています。
- インテグラ・タイプRは、何がそんなに凄いのか?
- 他のスポーツカーと比べて、どんな個性があるのか?
今回は、インテRの最終モデルである「DC5型」にスポットを当て、そのスゴさについて解説していきます。

インテグラ・タイプR(DC5型)って、どんなクルマ?
インテグラ・タイプR(DC5)諸元

販売期間 | 2001年7月 – 2007年2月 |
定員 | 4人 |
ボディタイプ | 3ドアクーペ |
ドライブ方式 | FF |
ホイールベース | 2,570mm |
全長 | 4,385mm |
全幅 | 1,725mm |
全高 | 1,385mm |
重量 | 1,170 – 1,180kg |
初代の予想を上回るヒットを受けて登場した、2代目かつ最終モデルの「インテR」
DC5型のインテグラ・タイプRは、インテRとしては2代目にあたるモデルで、ベース車となるのは4代目インテグラです。
「DC5」はこのモデルの車両型式を指しており、ノーマル仕様・タイプR仕様ともにこの型式になります。
DC5型が発表された当時は、ミニバンやワゴンが全盛の時代で、スポーツカーの人気はだいぶ前から下火となっていました。
時代の流れには逆らえず、その頃のホンダはスポーツカーのラインナップをどんどん整理していた時期でした。
- シビック(クーペ&3ドアモデル)
- プレリュード
- CR−Xデルソル
このスポーツカー不遇の時代において、クーペボディは軒並み生産を終了し「NSX」「S2000」以外のスポーツモデルは全て4ドアタイプとなってしまいます。
これらは高価格帯に位置するモデルであったため、「大衆向けのクーペモデル」がホンダのラインナップからすっぽり抜け落ちてしまいます。
その穴を埋めるべく2001年にデビューした4代目インテグラ(DC5型)は、先代までの4ドアを廃止し、3ドア専用ボディに生まれ変わって登場します。
先代モデル(DC2型)のタイプRが予想以上の人気を博していたため、新型モデルでは設計当初からタイプRの設定を念頭に開発が行われました。

「タイプR」を前提とした設計により、DC5型ではノーマルボディでも剛性が飛躍的な向上を果たします。
さらにタイプR仕様では随所に専用チューニングが施されており、当時「FF車世界最速」と評されるほどの走行性能を誇ります。

DC5型は2007年に生産終了していますが、それ以降は後継モデルの噂すら無いため、現時点では「最後のインテグラ・タイプR」といえます。
新型プラットフォームと車両装備の増加により、先代よりも大きく重くなったDC5型
DC5のプラットフォーム(骨格)はフルモデルチェンジに際し、新開発のものが採用されています。

新しいプラットフォームは車体剛性の向上だけでなく、当時改正されたばかりの厳しい衝突安全基準のクリアするために必要なものでした。
新型プラットフォームの採用により、ボディサイズは拡大し、先代までの5ナンバーから3ナンバー枠に移行しています。

車両に搭載される装備も増えたため、重量は先代モデルと比べて100kg程度増加しています。
また全高は1,385mmと、当時のスポーツカーとしては比較的背高なフォルムをしています。
これに関しては「外国メーカーに比べて、国産スポーツカーには重厚感がない」というチーム内の意見を基に、ボディに厚みと塊感を持たせたデザインが採用されたためです。

一方で、ボディの肥大化やスタイリングの変化については「先代タイプRのようなスポーツカーらしさが無くなった」という不満も一部で挙がりました。
専用パーツがてんこ盛り!「タイプR」はまさに、ホンダ公式のチューニングカー
「タイプR」は、ホンダのスポーツモデルにおける最上位グレードを指します。
タイプRの”R”は「Racing」を意味しますが、その名の通りサーキットでの走行を前提して設計されています。

ホンダといえば、かつてF1グランプリを始めとしたモータースポーツの分野で大活躍した自動車メーカーです。
タイプRとは、そんなホンダが培ったレーシングテクノロジーが注入された「ホンダ公式のチューニングカー」なのです。
ノーマル車には採用されていない特別パーツが「これでもか!」というほど奢られており、ホンダのタイプRに対する本気度が伺えます。

インテグラ Type R DC5
専用装備・チューニング
(一部抜粋)
高出力エンジン |
高強度ピストン |
高強度コンロッド |
高剛性クランクシャフト |
Brembo製4ポットブレーキ |
高性能ブレーキパッド |
6速クロスレシオMT |
17インチ専用アルミホイール |
215/45R17のハイグリップタイヤ |
専用エアロパーツ |
レカロ製バケットシート |
ストラットバー |
ヘリカルLSD |
強化エンジンマウント |
高性能マフラー |
スポーツECU |
アルミ製ボンネット |
Momo製ステアリング |
専用サスペンション |
スポーツエアクリーナー |
フロアクロスバー |
スポーツクラッチ |
強化ラジエーター |
オイルクーラー |
専用メーター(赤色照明) |
タイプR専用バッジ |
意外に低燃費!市販モデルなので耐久性があり、日常使いやメンテも楽チン
DC5のエンジンは当時の最新型で、「i-VTEC」と呼ばれる先進的な燃焼制御が搭載されており、優れた走行性能と低燃費性能を両立しています。
2.0リッター自然吸気エンジンとしては破格のパワーを誇りますが、10・15モード燃費は12.4km/Lと意外に低燃費です。
チューニングカー並のカスタムが施されてはいますが、市販モデルであるため信頼性や耐久性に関してもノーマルのインテグラと遜色ありません。

メンテナンスについても同様で、タイプRだからといって特別なメンテナンスは必要ナシです。
公道のみを走るなら他のクルマと同じように、定期的なオイル&フィルター交換などの基本的なメンテナンスでOKです。
タイプRというとハードな印象がありますが、通勤やお出掛けなどの日常使いも難なくこなしてくれます。
誰もが普通に運転することができ、乗り心地もそこまで悪くはなく、マフラー音も常識の範囲内です。
このように、スポーツカーとしての性能を維持しつつ、普段使いも楽チンというのがDC5の大きな魅力です。

DC5・タイプRのココが凄い!各パーツごとに徹底解説!
1.8から2リッターに拡大したエンジンは驚異の220馬力!
DC5インテグラには、2000年に新開発されたばかりの「K20A型」と呼ばれる排気量2リッターの自然吸気エンジンが搭載されています。
K20Aエンジンの概要

型式 | K20A型 |
エンジン種類 | 水冷直列4気筒 横置きエンジン |
シリンダー ブロック | アルミ ダイキャスト製 |
弁機構 | ・DOHC チェーン駆動 ・吸気2/排気2 計16バルブ ・i-VTEC機構 |
排気量 | 1,998cc |
内径×行程 | 86.0mm×86.0mm |
燃料供給装置 | 電子制御燃料噴射式 (ホンダPGM-FI) |
先代インテグラに搭載されていた「B18C型」が1.8リッターなので、僅かながら排気量がアップしました。
このエンジンは従来型のB型、F型エンジンの後継にあたる、次世代の低燃費エンジン「i-シリーズ」の第一弾でもあります。
特筆すべきはタイプR専用のK20Aエンジンで、その馬力は220psという数値を叩き出します。
排気量 (l) | 最大馬力 (ps) | 最大トルク (kgf·m) | |
---|---|---|---|
B18C型 ノーマル | 1.8 | 180 | 17.8 |
B18C型 タイプR | 同上 | 200 | 18.9 |
K20A型 ノーマル | 2.0 | 160 | 19.2 |
K20A型 タイプR | 同上 | 220 | 21.0 |
同じエンジンを搭載するノーマル仕様が160馬力なので、タイプR仕様は60馬力も向上していることになります。
2リッター・自然吸気エンジンというカテゴリにおいて、DC5(タイプR)のエンジンは間違いなく当時の市販車における最強スペックです。

ノーマルエンジンからの主な変更点は以下のとおりです。
吸気マニホールド | 単管等長ショートインテークマニホールドを採用し、高回転域で大きな吸気慣性効果を得る |
圧縮比 | 11.5まで上げることにより、トルクを向上させた |
エンジン本体 | スカート部にモリブデンコーティングを施した高強度非対称フォームピストン、ローラーベアリング式ロッカーアームなどにより、振動時の摩擦を低減 |
シリンダーブロック | クランクシャフトセンターでの上下2分割構造やラダーフレーム構造により、小型軽量・高剛性を実現 |
補機駆動 | すべての補機を1本のベルトで駆動するサーペンタイン補機駆動とサイレントチェーンを採用し、エンジン長の短縮を図る |
先代タイプRからの最も大きな変化は、ホンダの高性能エンジンの代名詞である「VTEC(ブイテック)」に関しての変更です。
DC2に搭載されていたVTECはカムの切り替わりが明確で、ドラマチックなパワーの出方が魅力でしたが、その反面ジャジャ馬的な扱いにくさもありました。
一方、DC5に搭載された「i-VTEC(アイブイテック)」は、吸気カムの無段階制御により幅広い速度域でパワーを発揮できるようになったため、より扱いやすいエンジンになりました。
VTEC | i-VTEC | |
---|---|---|
特性 | エンジンの回転数に応じてバルブの開閉タイミングとリフトを変化させる | 従来のVTECの機能に加え、可変バルブタイミング機構 (VTC)を追加 |
目的 | 低回転時には燃費効率を優先し、高回転時にはパワーを優先する | より広範囲のエンジンパフォーマンスを最適化し、低~中回転時のトルク向上や燃費向上、排出ガスの低減を実現 |
ポイント | カムの切り替えタイミングが明確(6,000rpm付近) | カムの作動を連続的・無段階にコントロール。幅広い回転域でパワーを発生させる。 |
このエンジンは音質にもこだわって設計されており、そのサウンドは今なお世界中のカーマニアたちを熱狂させ続けています。
以上を踏まえると、DC5・タイプRのエンジンは、
- フェラーリのV型12気筒エンジン
- マツダのロータリーエンジン
- ポルシェの水平対向6気筒(フラット6)エンジン
これら往年の名機と並んで語られるほどの官能性を持ち合わせた「ホンダの傑作」といえるでしょう。

ノーマルに比べ、より最適化された排気系
マフラーやエキゾーストマニホールドといった排気系については、レーシングマシン同様に「できる限りストレートで軽く」を設計思想としています。

排気干渉を低減すべく大径化された4-2-1エキゾーストシステムにより、ノーマルモデルよりも高出力化を実現しました。
さらに、高回転域における低排圧化を実現する可変バルブ付きサイレンサーを採用しています。
排気ポートからキャタライザ(有害排ガスを低減する触媒装置)までの距離が短縮されたことにより、触媒の早期活性化による排ガスのクリーン化も両立させています。

後方排気レイアウト | 排気ポート〜キャタライザまでの距離を短縮 |
4-2-1エキゾーストシステム | 排気干渉を低減し、高出力を実現 |
可変バルブ付サイレンサー | 高回転域での低排圧化を図る |
ダイナミックな操縦性と、鋭い吹け上がりを体感できる駆動系
タイプRでは、接地している外輪に駆動トルクをより多く配分するLSD(リミテッドスリップデフ)を採用しています。

これにより、アンダーステアの少ないコーナリングを可能にし、シャープな立ち上がりを実現しています。
また、ドライバーにエンジンパワーを直感的に伝えるため、クロスレシオの6速MT(マニュアル)を採用しています。

特にサーキット走行においては、シフトアップ時にVTECの高速カムを常に使用できるようにセッティングされています。
ギアの素材も最適化が図られており、
- 1~4速はマルチコーンシンクロ
- 5〜6速はカーボン材
とすることで、滑らかなシフトフィールを実現しました。

さらに、鍛造クロモリ製のフライホイールを採用することで慣性マスを大幅に軽減し、俊敏なレスポンスと高回転域までシャープに吹け上がる加速性能を手に入れました。

6速MT | ノーマルの5速に比べて、全域でエンジンパワーを的確に伝える |
ギアのクロスレシオ化 | シフトアップ時、常にVTECの高速カムを使用 |
フライホイール | 鍛造クロモリ製により、慣性マスを大幅に軽減 |
LSD | 接地外輪に駆動トルクをより多く配分し、アンダーステアを減らす |
高性能シャシーと、強化された足回り
DC5・タイプRのボディは、ドライバーの意志に限りなくリニアなレスポンスをもたらすシャシー性能を追求しています。
そのための取り組みとして、サスペンションの取り付け部の剛性を強化し、フロントとリアのサスペンションのセッティングも見直されています。

また、ダンパーオイルシール構造の変更や、ブッシュ特性の見直しにより、サスペンションのフリクションを低減。
これらにより、路面への接地性をアップし、リアの追従性を高め、フロントとの一体感を向上させています。

また4輪がしっかりと路面を捉え続け、リニアなレスポンスをもたらすために215/45ZR17サイズのハイグリップタイヤを装着しています。

シャーシ強化 | サスペンション取り付け部の剛性を強化 |
ダンパーオイルシールの変更 | 微小入力時の減衰を確保 |
ブッシュ特性の見直し | サスペンションのフリクションを低減、路面への接地性を向上 |
グリップ強化 | ハイグリップの215/45ZR17タイヤを装着 |
抜群の制動力と耐フェード性を持つブレーキシステム
スポーツカーにとって、ブレーキは非常に重要な要素であり、強大な制動力、高い剛性、優れた耐フェード性が求められます。
そのため、タイプRではイタリアの名門ブレンボ社と共同開発したアルミ製対向4ポットキャリパーとφ300mmの大径ディスクをフロントブレーキに採用しています。

この対向4ポットキャリパーは、パッドの偏磨耗を防ぎ、安定したペダル踏力と剛性を実現します。
ブレーキディスクはベンチレーテッドタイプで、大きな放熱面積を確保し熱しにくく冷めやすい特性となっています。

また、フロントバンパー下部にブレーキ冷却ダクトと導風板形状スプラッシュガードを装備することで、フェードフリーなサーキット走行を可能にする高レベルなブレーキ性能を実現しています。
リアには軽量アルミ製キャリパーを持つφ262mmのディスクブレーキを採用し、バネ下重量の軽減を図っています。
対向4ポットキャリパー | アルミ製で、片側2個ずつのピストンがパッドを均等に押さえる。パッドの偏磨耗を防ぎ、安定したペダル踏力と剛性を実現。 |
大径ディスク (φ300mm) | ブレーキディスクはベンチレーテッドタイプで、大きな放熱面積を確保し、熱しにくく冷めやすい。 |
ブレーキ冷却ダクトと導風板形状スプラッシュガード | フロントバンパー下部とフェンダー内に装備し、ブレーキシステムを冷却。フェードフリーなサーキット走行を可能にする。 |
リアブレーキ | 軽量アルミ製キャリパーを持つφ262mmのディスクブレーキを採用し、バネ下重量の軽減を図っている。 |
タイプR専用のエクステリアとインテリア
タイプR専用エアロは見た目だけでなく走りのための機能性を有します。

フロントには大型のエアインテークを配し、エンジンへの冷却効率を上げています。
また、リアスポイラーは高速走行時のダウンフォースを増加させ、操縦安定性を向上させています。

インパネ周りはサーキット走行時を考慮して、操作性・視認性に優れる設計になっています。

レカロシートも標準装備されており、優れたホールド性を提供し、高速コーナリングでも体が滑らず運転に集中できます。

同じく標準装備のMOMO製の専用ステアリングは、ノーマルよりも握り心地と操作性を持つほか、ドライバーの気分を盛り上げてくれます。

このほか、滑り止め処理が施されてたアルミペダル、削り出しのアルミ製シフトノブなど、タイプRならではの専用装備が盛りだくさんです。

専用エアロ | 大型のエアインテーキとリアスポイラーを装備。エンジンへの冷却効率と高速走行時のダウンフォースを向上させる。 |
レカロシート | 優れたホールド性能と快適性を提供。高速コーナリングでも体が滑らず、正確な操作を可能にする。 |
モモステアリング | 握り心地と操作性に優れたレザー製ステアリング。緻密なステアリング操作を可能にする。 |
アルミペダル | 軽量化とスポーティな見た目を提供。滑り止め処理により、確実な操作感を得られる。 |
シフトノブ | 手にフィットする形状により、精密なギアチェンジをサポートする。 |
まとめ
インテグラ DC5 タイプRは、走りの楽しさを追求した一台です。そのパフォーマンスとハンドリング性能は、ホンダの「タイプR」シリーズが持つべき資質を如実に示しています。
レーシングスピリットをストリートにもたらしたこの車は、今でも多くの愛好家から支持されています。
それはDC5がただの車ではなく、ホンダの理念と技術が詰まった、「走る喜び」を具現化した一台だからでしょう。